知的財産推進計画2025 - グローリア・ルジベット特許事務所

知的財産推進計画2025

内閣総理大臣を本部長とし、全閣僚および民間の有識者を含む人員で構成された知的財産戦略本部により、毎年公表されている「知的財産推進計画」の2025年度版が、同年6月3日付で出されていました。

この「知的財産推進計画2025」は全117頁からなる資料ですが、目を通してみると、これまでの我が国の知財戦略を振り返り問題点について考察した内容や、今後の方向性や重点とする取組みについて詳細に述べられており、大変興味深いものでした。
以下、簡単に内容を紹介致します。

1.これまでの我が国の知財戦略の振り返り:

我が国はこれまでも、環境変化や主要国の動向を踏まえて知的財産戦略を推進して来たものの、競争力は長期的に低落傾向にあることが、懸念点として指摘されていました。

具体的には、WIPOのグローバルイノベーション指数(2024年)の日本の順位は13位であり、韓国(6位)や中国(11位)と比べても遅れをとっている状況です。

また、スイスの国際経営開発研究所(IMD)の世界デジタル競争力ランキングにおいても31位(2024年)と低迷している状況です。

一方で、コンテンツ産業やクールジャパン関連産業は大きく発展しており、日本の国家ブランドは世界トップクラスを誇っており、これが現在の我が国の主な強みとなっています。

しかしながら、この強みに基づいて十分な収益を得ている状況とも言えず、今後の収益拡大が課題であり、知財マネジメントの高度化が必要です。

2.今後の知財戦略の方向性:

この先10年のあいだに、我が国の人口減少が深刻化し、イノベーション人材が減少し、国内市場が頭打ちになることが予想されます。一方で、グローバル市場は引き続き成長することが見込まれています。
このほか、AI技術の急速な発展と、社会経済システムの大きな変革が予測されます。

そこで、グローバルでのマーケティングや収益最大化を強く意識しながら、知的財産の「創造」、「保護」及び「活用」からなる「知的創造サイクル」を回し、国内外の社会課題の解決を図る「新たな知的財産創造サイクル」を構築することが求められているのが現状です。

これを実現するための3本の柱として、

・① イノベーション拠点としての競争力強化
・② AI等先端デジタル技術の利活用の推進
・③ グローバル市場の取り組み

が掲げられています。

特に、具体的に実現を目指すべき目標として、

・2035年までに、WIPOの「グローバルイノベーション指数」の世界上位4位以内を目指す。
・日本市場(日経225)における時価総額に占める無形資産の割合を、2035年までに50%以上にまで高める。

といった、非常に高い目標が掲げられていました。

特に、無形資産の割合に関しては、我が国は米国(2020年時点で無形資産の割合は90%。)等と比して、大幅に後塵を排している状況(2020年時点での日本の無形資産の割合は32%。)であり、時価総額に占める割合を大幅に高めることが急務です。

そしてその為には、特にアジアにおける一大研究開発拠点・イノベーションハブとしての地位の確立を図り、知的資本(知、技術、資本)を国内に集積し、そのような知財・無形資産を最大限活用して成長する「価値創造大国」を目指し、「コストカット型経済」から「高付加価値型経済」への転換の実現を図って行くことが必要であると、述べられていました。

コストを抑えた安価な物・サービスしか流行らなくなった昨今の我が国の市場状況を鑑みると、気の遠くなるほど高い目標ですが、人口減少等の深刻な現状を踏まえると、今後の我が国の発展には不可欠な事のように思います。

一方で、コンテンツ産業やクールジャパン関連産業に関しては、我が国は現時点では成功を治めている状況です。

現に、2024年の調査結果によると、日本を「好きな国」とする率は、全世界の国・地域平均で56.2%もの率を誇り、我が国のサービス収支の内訳のうち、「知的財産権等使用料」と「旅行」に関しては過去数年にわたって黒字であるのは、世界中の多くの日本ファンに支えられていることが示唆されます。

しかしながら、日本を好きだと公言する外国人の意見を見聞すると、「日本人は礼儀正しく、親切である。」、「日本の美しい環境が好きだ。」と、古き良き時代の日本のイメージ自体を好んでいることが伺える状況です。

この日本人気が未来永久に続くとは安易には考えられないため、現在の人気に頼るのではなく、今後も日本の魅力を他の観点においてもさらに増やして行くための継続的な努力が必要なように思います。

3.まとめ

以上のように、我が国の知的財産分野を取り巻く状況は、なかなかに前途多難な様にも思えますが、だからこそ、これから取り組まなければならない課題が豊富に転がっているフィールドであり、非常にやり甲斐のある分野であると、考えています。

以上のような内容を踏まえ、当職が専門分野に関し社会において最大限貢献するためには、どの様な事を追究して行くのが良いか、日々思いを馳せながら過ごしています。

(2025.11.02)

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