ホソカワ君 - グローリア国際知財事務所

ホソカワ君

 

大学生の頃、大学の講義で英作文の授業があった。その授業は毎週土曜日の午前の終わりの時間にあったのだが、毎回、次の授業までに何でもいいので何か英作文を自由に書いてくるように、との課題を出された。何について書いてもよいし、長さも、形式も、何も決まりは無かった。まさに「自由」だった。

その英作文は、先生以外の人には特段公表されることはなく、ただただ、先生の修正・リライト(赤入れ)だけがされて、後ほど返却されるものだった。

私は、その授業の「自由さ」が好きで、先生の指示どおり、毎回、かなり自由に、書きたい事を好きなように書いていった。私の中では、絶好の「遊び」の一種だった。落ちのある話が好きなので、毎回、作文の後半には必ず、落としどころを作った。

先生は私のその英作文を気に入ってくれているようで、毎回、「次週の楽しみにしています。」とコメントを書いてくれた。文通のようでたのしかった。

ある夏、私は、兼ねてより淡い恋心を抱いていた「ホソカワ君」という男の子に、一緒に花火を見に行きたいと、誘って見たことがあった。しかし、その時、ホソカワ君は、どうしようかと少し迷ったようには一応は見せかけたものの、あっけなく、バイト先(コンビニ)に以前から気になっている子が居るから、と言って、私の誘いを断った。

もともと、そんなに喋り相手がいるわけではなかったのだが、それでも、ホソカワ君に振られたことは、私の心には堪えた。

ただでさえ長い夏休みが、まるで10年も20年も続くような、永遠の休暇のように思えた。

寂しさを紛らわせるために、悲しい曲調の曲を部屋で大人しくきいたり、バッハのクラヴィーア曲集の中から、短調だけど少し明るめなメロディを持つ、どこまでも悲しみに浸れるものを選んで、涙ながらにピアノを弾いたりして、夏が過ぎるのを待った。

家にいる他は、人がぽつりぽつりとしかいない大学図書館へ足を運んで、ひっそりと一人で洋雑誌を読んだり、トーイックの練習本を開いたり、聞き慣れない名前の小説家の著書をでたらめに本棚から取って来て読んだりして過ごした。孤独だった。

夏が明けたとき、再び、私が好きな英作文の授業が再開された。先生は、いつものように、何でも好きなことを書いてよいです、と言っていた。

私は、特に躊躇することなく、失恋で心を痛める女の子の様子を描いたヘンテコなポエムを作った。でもこれは、私のリアルな失恋後の悲しみ暮れる心境を、多少の着色は含むものの、ありのままに書いたものだった。

次の週、英語の先生は、「由子さんの英作文がとても面白かった。是非クラスのみんなにも

、読んで聞かせてあげてほしい。ちょっとそこで起立して、読んでみてくれる?」と私に尋ねた。

少し迷ったが、先生がそう言われるのなら、断るのも変なので、「Sure」と私は答え、仕方なく恥ずかしい気持ちを押さえて、クラスメイトの目前で、自作の英語のポエムを音読した。

先生は、あろうことか、「Great! そこ、日本語に少し訳して皆に紹介してみてくれる?」とか、ここの文法はこうなっているとか、詳細に私のポエムの解説(講評)を、授業内でし始めた。

さて、困ったことになった。

目下、気になるのは、同じ授業を受けている、ホソカワ君の様子だ。ちらっと彼の方に目をやると、何やら恥ずかしそうにしている。そのうち、机に伏せて、寝ている振りを始めた。

それでも、音読を途中で止めるのも変なので、私は、先生に言われるがままに、音読を続けた。

一人だけ、状況を知っていた、「真理ちゃん」という女の子は、ずっとニタニタ、私とホソカワ君の様子を交互に見ては、声を凝らして笑っていた。

授業後、私は、真理ちゃんにこう言われた。「由子ちゃん。さっきの授業、ずいぶん意地悪なことしていたね♪」

そうかもしれないが、図ってやったことではない。

まさか、英作文を公にされる事があろうとは、万が一でも想定していなかったから、だからこそ文字通り「自由に」、英作文をしたのだ。

それが、まさかこんな事になろうとは。

多分、先生が私に「日本語に訳してみて。」と指図していなければ、ホソカワ君は英語がギリシア語に接するかの如く、大の大の大の苦手だったので、何を書いていたかは彼にはバレなかったと思う。それを、まさかそこまでさせられるとは。。。

これは、本当に私も内心、ホソカワ君に大変な悪い事をしてしまった、と思い、後で物凄く後悔しました。😢

今でも、その時の様子や心境を、鮮明に覚えています。

でも、具体的にどんな内容を、そのヘンテコなポエムに書いたかは、何も覚えていません💦

ホソカワ君、あの時はすみませんでした。

I feel terribly sorry for you about that day.

Sincerely, Yoshiko

コラム一覧

TOP
LINEでお問い合わせ お問い合わせフォーム